最高裁判所第三小法廷 昭和29年(あ)949号 判決 1956年3月06日
主文
本件各上告を棄却する。
理由
被告人鈴木兼治外四名の弁護人加藤定蔵の上告趣意について。
論旨は、被告人等はいずれも米の生産者であるが、飯米に不足したため、後日自ら生産した米で返還することとして伊藤銀治から粳玄米を借り受け、その借用米を伊藤方から被告人等方まで運搬したのが本件事案なのである。そして右借用行為は違法ではないのであるから、その運搬も違法とはならないのに、原判決がこれを有罪と判断したのは違法であると言うに帰する。おもうに、主食の輸送を刑罰を科して禁止する所以は、それが食糧の需給調整を妨げ、或は配給の統制を乱す等の素因となるからである。言いかえれば、食糧の不法取引には常に輸送が伴うので、右不法取引を絶滅するには、輸送そのものを取り締る必要が生じて来るからである。されば、主食の輸送が罪とならない場合は、食糧管理法施行規則四七条に列挙している場合に限るのであって、同条列挙の事由の存しない限り、たといその輸送が適法な行為に基く場合(たとえば、主食の所有者が自家消費のため輸送する場合等で)あっても犯罪の成立を妨げるものではない(昭和二五年(あ)五八二号同年七月二七日当裁判所第一小廷判決、集四巻八号一五三一頁参照)。それ故、本件粳玄米の輸送が所論のように適法な借用行為に基くものであったとしても、そのことだけで輸送の違法を阻却するものと言うことはできない。しかも所論は、右述べたとおり理由のない法令違反の主張に過ぎず、刑訴四〇五条所定の上告理由に当らないので、採用することはできない。
また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
よって同四〇八条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 島 保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎 裁判官 垂水克己)